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ニュージーランド在住のプログラマがあれこれ書くブログ

NZの和食料理人が「食べ残しの皿を下げるな!」という理由

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ニュージーランドはクライストチャーチに、Kinji という和食料理店があります。

NZを代表する日本料理屋のひとつで、世界的な旅行クチコミサイト・トリップアドバイザーの「日本国外にある和食レストランランキング」でなんと世界第6位にランクインするほどの名店です。→ CHCの日本食レストランKinji 世界のトップ6に選ばれる | 日刊ニュージーランドライフ

今日はそのお店のお話。

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「どうして食べ残しを下げるんだ!」

僕の友人のひとりが、Kinji のホール担当として働き始めました。彼女はある日、一組のニュージーランド人のお客さんのテーブルを担当することになります。

ドリンク、料理の注文を受け、お皿をつつがなくサーブし、食事も終盤に近づいてきました。さてそろそろお会計かというところでテーブルの上を見ると、注文された照り焼きチキンが、かなり食べ残されていました。

彼女は「こちら、もうお済みですか?」とお客さんに声をかけます。

「ええ、下げてもらって大丈夫です」とお客さんが言うので、彼女は素直にそのまま皿を下げて厨房に戻りました。

すると、その姿をみた料理長のキンジさんが一喝。

「おい! どうして下げてきたんだ!」

えっ、だってお客さんが下げていいって言ったから……と困惑する彼女に、キンジさんはこう続けました。

「そのままなら食べられなくても、巻き寿司にすれば食べられるかもしれないし、持ち帰ってもらえるかもしれないじゃないか!」

この話を聞いたときは、正直「なんて理不尽な……」と彼女がちょっとかわいそうになってしまいました、笑 叱った理由も、「廃棄を出すのがもったいないってことかなぁ」なんて思ってました。

が、キンジさんの意図は別にあったことが後日判明します。

食べてもらえないのは料理人の負け

しばらくして、Kinji にディナーにうかがった際、キンジさんご本人とお話する機会がありました。

そして、たまたま「ニュージーランド人が料理を残したらどうするか?」という話題になったんです。

キンジさんはこうおっしゃってました。

「白身魚の味噌焼きとか、豚の角煮とか、ニュージーランド人のお客さんは残されることもありますよ。

そういった料理って、我々日本人はどういう味かわかってるけど、彼らはわからないじゃないですか。

だから、試しに頼んでみたけど、口に合わなかったから、残す。それはわかります。

でもそこで引き下がってしまっては、料理人の負けなんです。お客様の満足できるものをお出しできなかったということですから

だから、巻き寿司にしたらどうかな、豚の角煮なら、脂身を取りのぞいて差し上げたら食べられるかなって考えるわけです。

あそこの料理口に合わなかったなぁ、という印象のままだと、そのお客様は二度といらっしゃらないじゃないですか。

でも、アレンジして食べられる形にすれば、また来ていただけるかもしれませんからね。」

海外での和食屋の価値は「日本食を提供すること」ではない

この話を聞いて、なぜ Kinji さんがここまで人気を集めているのか納得がいきました。

Kinji では、「日本料理を提供すること」ではなくて、「お客さんにとって美味しい食事を提供すること」を重視しているんですね。

ここでは、白子やナマコなどの日本人しか頼まないような珍味や、揚げ出し豆腐やタケノコの煮物といった居酒屋メニューがとても充実しています。

かといって日本人向けメニューにかたよることなく、テリヤキチキンやラムのローストなどのローカライズされたメニューまで提供しています。しかも、どれもちゃんとおいしい。

だから日本人だけでなくニュージーランド人にも広く愛され、予約なしでは入れないほど、いつも席が埋まっています。

表向きは純日本風の和食屋さんでありながら、純和食にこだわらずにお客さんの嗜好を尊重しているからこそ、高い支持を得ている。

そもそも、日本食の味がわかる人向けに日本料理屋をやりたいなら、日本でやればいいわけです。何も日本人の少ない海外で商売する必要はない。昔ながらの職人気質の寿司職人ほど海外では成功しない、なんて話も耳にします。

先日、「海外の日本食レストラン勤務の私が見た、外国人のヘンな日本食の食べ方」というブログ記事を読みました。このレストランはドイツで伝統的な日本食を出すことをモットーとしているようですが、老婆心ながらこの先うまくいくか心配になります。

日本の外に出た瞬間、和食屋に求められる価値は大きく変わる。それに気づくかどうかが海外で成功するかどうかの分かれ目じゃないかな、と感じたできごとでした。

( Kinji の公式サイトはこちら )

追記

海外の日本食レストラン勤務の私が見た、外国人のヘンな日本食の食べ方」の著者様よりコメントをいただき、こちらのお店はドイツで30年続く歴史ある和食屋さんだそうです。海外で純和食で勝負して生き残ってるのはすごいです。「この先うまくいくか心配」なんて書いて大変失礼しました……。