「居酒屋でお酒を頼まずに食事だけして帰る客が増えている」とのブログがかなりの反響を呼んでいます。
内容を要約すると、
「ある居酒屋に6人組の女性客がやってきて、ドリンク類を一切頼まず、コースの食事メニューだけ食べて帰っていった。そんなことをやられては個人経営の居酒屋はやっていけない」
ということです。
「ワンドリンク制にすればいいじゃないか」
「料理の原価が高いなんて店の都合だろ?」
「どうして客が経営者目線にならなきゃいけないんだ」
なんてブコメもあふれていますが、
「サービスは、お店とお客でつくるもの」だと思うのですよ。
Contents
居酒屋の提供するサービスとは?
飲食店はその業態、また個々のお店によって、提供するサービスが異なります。
たとえばホテルの最上階にあるような高級レストランは「上質な料理と最高の景色を、たっぷりの時間をかけて提供する」、
ファストフード店は「安くて安定した品質の料理を、アクセスしやすい場所で素早く提供する」、といった感じですね。
この居酒屋の場合はどうだったのでしょう?
どうやら食事を比較的安い値段で提供し、お酒で利益を稼ぐというモデルで経営されていたようです。
つまり「美味しい食事を安く提供して、それをアテにたのしく酔っぱらってもらう」というサービスを提供しているのです。
ところが、例の団体さんは「美味しい食事を安く食べられる」というサービスだけを期待していたようです。ここに双方のすれ違いが生じてしまったのです。
期待するサービスを間違えると悲劇になる
高級レストランとファストフードの例を今一度取り上げましょう。
たとえば、「上質な料理と最高の景色の場所で食べたい。でも時間がないから、コース料理を30分で全部持ってきてくれ」というお客さんは、高級レストランにはふさわしくありません。
なぜなら、その上質な料理は1時間半〜2時間かけて、ゆっくり提供されることを前提に組み立てられているからです。
同様に、「手早く食事をすませたい。それから5時間椅子でゆっくりしたい」というお客はファストフード店にはふさわしくありません。ファストフード店の商品の安さは回転率に支えられていますから、数百円(ときに100円!)で何時間も居座られてはたまりません。
そうならないように、ファストフード店の椅子は固く、小さく、座り心地が悪くなっています。
ブログ中の居酒屋さんの安くて美味しい料理も、その分お酒を頼んでもらうことで成り立っているわけです。自分にとって都合の良いサービスだけいただこうとするのは、期待するサービスを間違えています。
ただ美味しい食事を安く食べたいのなら、食堂やファミレスに行けばよかったのですよ。
飲食店に限らない
これって、飲食店に限らないですよね。
システム構築やWeb制作の会社は「クライアントの要望を聞き取って、それを実現する」サービスを提供しているのに、「要望を実現する」ところだけ切り取って、勝手にいい感じに作ってくれるものと勘違いして協力する姿勢を見せず、成果物を見てから文句を言う人とか。
救急車は「緊急に治療が必要な患者を、無料で迅速に医療機関に運ぶ」サービスなのに、「無料で迅速に医療機関に運ぶ」ところだけ利用しようと大した症状でもないのに119番する人とか。
サービスの前提を理解していない利用者が増えると、提供者は疲弊します。
そして、最悪の場合、サービスのモデルが破綻します。
ほんとうにサービスを受けたい、サービスが必要な人が、不利益を被ることになります。
これをすべて経営の怠慢だと断じてしまうのは、サービス利用者の傲慢ではないでしょうか。
まとめ
お店側は常によいサービスを提供しようとがんばっています。
ですが、お客の側がそれを理解しない姿勢でいると、そこに悲劇が生まれます。
気持ちのよいサービスを受けるためにも、よいお客でありたいものです。

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