明日は11月23日、勤労感謝の日ですね。この週末は3連休をお過ごしの方も多いと思います。
ニュージーランドにも似たような意味合いの祝日、Labour Day (レイバーデイ)が存在し、10月の第4月曜日が祝日。土日と合わせて3連休です。
このレイバーデイの背後には、産業革命後の劣悪な労働環境に立ち向かったひとりの男性の物語があります。彼の存在は、いまでもニュージーランドの誇りのひとつとなっています。
今日はそんなレイバーデイの成り立ちと、現在のニュージーランドの労働環境について調べてみました。
レイバーデイの成り立ち
レイバーデイの歴史は、1840年のウェリントンにまでさかのぼります。ウェリントンは現在でこそニュージーランドの首都として発展していますが、当時は新興都市のひとつにすぎませんでした。
ここに、サミュエル・ダンカン・パーネルというロンドンからの移民がおりました。

(注: これは後年の写真、移住当時はもっと若いです)
19世紀のロンドンの労働環境は非常に劣悪で、パーネルも大工の仕事を1日12時間〜14時間こなしていました。1日4時間〜6時間の残業ってわけです。現在の日本なら確実に社畜扱いですね。
「バーロー! こんな長時間労働やってられるかい!」と嫌気がさした彼は、自分で独立して仕事を始めてしまいます。そして、結婚したての奥さんを連れてニュージーランドに移民することを決意。ずいぶんな行動力です。ついてきた奥さんも偉い。
さて、パーネルはニュージーランドに向かう船の上で、ジョージ・ハンターという男に出会います。パーネルが大工経験者と知ったハンターは、彼に自分の店を建ててほしいとお願いします。するとパーネルはこう答えました。
「いいぜ。ただし俺は1日8時間しか働かないぞ。24時間は、8時間働いて、8時間遊んで、8時間寝るためにあるんだからな」
ハンターは当初、この条件をのむのを渋ります。「バカ言え、そんなのロンドンじゃありえないぞ!」一日12時間労働が当たり前だった社会です。納得いかないのも当然ですね。
しかしパーネルも譲りません。敢然とこう言い放ちました。
「何言ってるんだ。ここはロンドンじゃないんだぞ」
結局、ウェリントンにおける人材不足もあり、ハンターはパーネルの条件をのむことにしました。
ウェリントンに住み着いたパーネルは、新しい移民たちひとりひとりに、「1日8時間以上働いちゃだめだ」と説いて回りました。この運動はあっという間に大きなうねりとなり、1840年の10月に行われた労働者集会にて、「朝8時から夕方5時まで、8時間だけ働くこと」が決議されました。
これより悪い労働条件を受け入れた労働者は港に投げ込まれたそうです。
……どんなだよ。しかし、8時間労働制という新しい働き方が、どれだけ当時の労働者に熱狂的に受け入れられたかが伺い知れます。きっと、ヨーロッパとは違う、新しい社会を作るんだ! という気概も、当時の移民たちの中で高かったのでしょう。
こうして、ニュージーランドは世界で最も早く8時間労働制を取り入れた国のひとつとなりました。その後も定期的に労働者集会は続き、時代は下って1900年に、10月第4月曜日をレイバーデイとして祝日にすることが決議され、現在に至ります。世界に先駆けて8時間労働制を勝ち取った歴史は、ニュージーランドの誇りなのです。
以上、出典
https://en.wikipedia.org/wiki/Samuel_Duncan_Parnell
Labour Day – Wikipedia, the free encyclopedia
ニュージーランドの残業時間
さて、そんな歴史をもつニュージーランドですが、当然残業全然しない労働者天国……かと思いきや、ちょっと気になる情報があります。
working hours in New Zealand have generally increased, that we now, on average, work longer hours than any country except Japan and Korea
ニュージーランドの労働時間は一般に増加しており、平均して、日本と韓国以外のどの国よりも長く働いている。
Labour Day and the Struggle for Fair Working Hours in New Zealand | Yellow “How To”
おやおやこれはどうしたことでしょう。日本と韓国が別格扱いされているのがなんともな感じですが……さて、本当に労働時間が増えているのか、国勢調査のデータを見てみましょう。
2013年時点で、勤務時間が週49時間以下の人が約80%、50〜59時間の人が10%強、60時間以上の人が約8%という結果です。
20%近くの人が、月40時間以上の残業をしているのは、ニュージーランドって残業ほとんどしないんでしょ、と考えている人たちにとっては少しショックかもしれません。
しかし実際には、グラフから読み取れるように、週50時間以上の労働をしている人の割合は2001年から減少傾向にありますね。
続いて、労働時間を職種別に調べたグラフを見てみましょう。

機械技師や運転手、管理職といった職種では、約3分の1が週50時間以上の労働(=月40時間以上の残業)をしているようです。……といっても、なんかこのグラフ、このままではざっくりしすぎてよくわかりませんね……。Managers とか Professionals とか、多業種に渡っていてなんともわかりにくいです。
それぞれのグループに、具体的にどんな職種が含まれるのかは、ここから確認できます。
Australia and New Zealand Standard Classification of Occupations
筆者が一番気になるITエンジニアは、Professionals に含まれます。Professionals では、週50時間以上の労働をしているのは全体の20%ですね。少なくとも、日本の一般的なIT業界のイメージと比べれば、残業時間は短いだろうという感じです。ITエンジニアだけの統計じゃないので評価しづらいですが、筆者が「日本では月平均50時間から60時間、多い時で100時間残業やった」とこちらのエンジニアに話すと、100%「クレイジー」と言われるので、ニュージーランドで就職すれば間違いなく日本よりまともな働き方ができるでしょう。
まとめ
日本は残業しすぎ、海外では全然やらないぞ! という声はけっこう聞きますが、実際にデータをのぞいてみると、より客観的な事実が見えてきますね。確かに日本は例外的に残業多すぎだろとは思いますけど、ニュージーランドは残業全く無いかというとそうでもないという現実も、統計から読み取ることができます。
まぁ、筆者は日本で死ぬほど残業経験しましたから、それに比べれば多少の残業くらい楽なもんです。プログラマは日本より圧倒的に高待遇だし、数週間のまとまった休暇だってあります。プロジェクトマネージャーにならなくとも、シニアプログラマというキャリアパスがあるのもうれしいです。
筆者はニュージーランドのゆったりした雰囲気が大好きです。経済発展を求めすぎて日本のような社会にならないよう、いつまでもパーネルが8時間労働を勝ち取ったときの精神を忘れないでいてもらいたいですね。

(皆の者……わしの心を忘れるでないぞ……)