「現代の魔法使い」落合陽一さんの以下のツイートが注目を集めているようです。
日本人のセルフイメージって2010年のGDPのままな気がする.中国に抜かれたって大きく報じられたから今でも僅差だと思ってる人多すぎる. 今日本のGDPはアメリカの約1/4 だし,中国の半分以下だし,一人あたりは世界27位の貧しさだ. pic.twitter.com/Q9bf9ICrZk
— 落合陽一/「魔法の世紀」発売中 (@ochyai) December 17, 2015
これに反応して、思想家の東浩紀さんがこんなツイートをされて、これがまた反響を呼んでいます。
失われた10年なるものももう25年にまで延びてきて、若い世代は「失われていなかった時代」そのものを思い出すことが難しくなっている。戦争の風化以前に、豊かさの風化を止めないと国にはマジで沈没する。日本最高とか言う前に、一回でも外国行ってみればいろいろわかるんだけどね。。
— 東浩紀@12/26総会来てくれ (@hazuma) December 19, 2015
うーん、筆者は1985年生まれで、物心ついた時にはすでにバブルが崩壊していたので、正直なところどれくらい日本が貧しくなってしまったのか実感としてはわかりません。むしろ携帯電話やインターネットの登場で世の中はどんどん豊かになっていったような感覚さえあり、日本が貧しくなったって、ほんとにそうなの? と思ってしまいます。
東さんは「一回でも外国行ってみればいろいろわかる」とも言われてますが、筆者はシンガポールとニュージーランドの二カ国にしか行ったことないんですけど、日本はなんでも安く手に入るし、ご飯も美味しいし、公共交通機関は発達してるし、治安は良いし、「日本サイコー」としか思ったことないです(労働環境は置いとくとして)。ので、いくつかの経済指標を見ながら、ほんとに日本は貧しくなったのか? について考えてみたいと思います。
日本の経済指標を見てみよう
まずは日本のGDPが、バブル景気以降どのように推移してきたかグラフで確認してみましょう。
source: tradingeconomics.com
バブル景気がはじまった1986年から急速に成長が始まり、1980年に1兆ドル程度だったGDPは1995年には5兆ドルを突破。ものすごい成長率ですね。バブル景気の終焉は1991年とされていますが、それ以降もGDPが増加していたのは以外です。が、それ以降は上がったり下がったり、ここ最近では1990年代前半の水準まで下がってきているようです。
しかしこれだけを見ても、せいぜい横ばいといった感じで、そんなに貧しくなったという感じはありません。そこで次に、国税庁が調査した平均民間給与のデータをのぞいてみます。はてなダイアリーにわかりやすくグラフでまとめてくださっていた記事があったので引用します。
出典: この国の給与の官民格差1.5倍以上は極めてアンフェアである理由〜人事院の「主要な民間企業」の給与の動向は実態とかけ離れている – 木走日記
なんと……平成8年(1996年)以来、民間企業の平均年収はどんどん下がってます。平成25年時点で414万円、ピーク時から比べると50万円も低くなっている。これは痛い。このままだと300万円を切ってもおかしくありません。家計レベルで見ると、生活はどんどん貧しくなっているといって過言ではなさそうです。
次に少し目先を変えて、日本全国の飲食店の店舗数を見てみます。お給料が減ってるとすると、外食を控えて自炊で節約しようとするのが世の常。であれば、平均年収が減っているなら飲食店の数も減っているはずです。こちらも総務省統計局のデータが他のブログでわかりやすくまとまっていたので引用してみます。
(単位: 千店)
出典: 飲食店の店舗数推移と市場規模 | Vita Ricca.
1996年に80万件以上あった飲食店は、2012年時点で50万件台にまで減少しています。特に「酒場・ビヤホール」「バー・キャバレー・ナイトクラブ」の減少が著しく、食堂やそば・うどん店などのランチでよく使われる店が健闘していることを考えると、人々が贅沢する余裕がなくなっている様子が見て取れます。
なるほど、庶民的な暮らしをしているとスーパーや安い飲食店しか使いませんから、飲み屋がどんどん少なくなってるようなことには気づきにくいですが、お金持ってる人ほどその辺の変化には敏感になるのかもしれません。ラーメン屋や食堂がバタバタ潰れだしてから「ヤバイ! 日本貧しくなってる!」と気づいてもさすがに遅すぎるでしょう。
ニュージーランドはどうなの?
比較対象として、ニュージーランドのデータも調べてみました。まずGDPのグラフから見てみましょう。
source: tradingeconomics.com
伸び率が半端ないですね。1980年台には250億ドル程度だったのが2000年台に急速な伸びを見せ、今では2000億ドルに達しようとしています。30年で8倍。すごい。
続いて平均給与の推移を見てみます。こちらは Statistics NZが毎年統計を発表していますのでそちらから引用します。

出典: New Zealand Income Survey: June 2014 quarter
週間給与の推移のグラフとなっていますが、2005年に450ドル程度だったのが2014年には600ドル。10年で3割も増えたことになります。これもすごい。
では飲食店の店舗数はどうなのか。こちらも Statistics NZ の統計がありました。

出典: http://www.serviceiq.org.nz/assets/Uploads/Cafes-Bars-Restaurants.pdf?
ここ数年は横ばいですが、傾向としては右肩上がりですね。
この3つの指標を比べると、日本とニュージーランドは経済的に対極にあることがわかります。日本がバブル景気を経てどんどん貧しくなっているならば、ニュージーランドはこれからどんどん豊かになっていると言えそうです。
筆者はニュージーランドに住み始めて1年ちょっとなので、景気の肌感について語るには短すぎますが、クライストチャーチに限っていえば、だんだんと賑やかな街になりつつあると感じています。2011年の地震で壊滅的被害を被った中心部も再開発が進み出し、各種施設やホテルの営業再開が始まっています。大型のオフィスビル、商業施設、子供向けのプレイグラウンドなども建設ラッシュです。
いま住んでいる、クライストチャーチ郊外のリンカーンという小さな町も、新興住宅街ができてどんどん売りに出されていますし、町の規模に似つかわしくないほど大きなレストランもできました。しかし大人気で連日ほぼ満員です。大学のキャンパスの再整備もすすみ、ますます人が増えていくことが予想されます。
また、経済の中心地であるオークランドでは、最近になって、ニュージーランドで最も高いビルとなる「コマーシャル・ベイ」の建設が発表されました。こちらには Zara、H&M、そしてユニクロといったグローバルなアパレル企業が出店を検討中だとか。
世の中が豊かになっていくというのは、こういう雰囲気のことをいうのでしょうかね。大きな建物がどんどん建って、新しいお店が続々オープンして、街に人が増えていく。日本でも高層ビルの建設のニュースはしょっちゅう聞きますが、いずれも既存の建物の建て替えや再開発に伴うもので、何もなかったところに何かができるのとは性質が違うのかもしれません。
確かに日本は貧しくなっている
こうしてふたつの国を比べてみると、日本は収入もお金を使う場所も減っている、ニュージーランドは増えていると捉えることができそうです。確かに東さんの言うとおり、日本はどんどん貧しくなっていると言えそうです。
しかしそれが本当に悪いことなのかはまだわかりません。居酒屋やキャバレーは所詮ぜいたく品です。それが無くなっても人々が安価なサービス、安価なエンタメで暮らしに満足しているのなら、特に問題はないでしょう。問題なのは、その安価なサービスすら維持できないほど経済が縮小してしまった場合です。「現状維持でいいやー」と思っていると現状維持すらできない、なんて話はよく聞きます。そうなってくると、さすがにみんなまたがんばって働き出すんじゃないですかね。
一方、ニュージーランドがどんどん経済発展していくのも、筆者としてはなんだか複雑な気分です。筆者は今のクライストチャーチのほどよく田舎な感じが好きなので、これからどんどん経済が発展して、日本とそんなに変わらない都会になってしまうのもなんだかなーと思ってしまいます。政府としては経済を成長させない選択肢はないので、避けられないんでしょうけど。都会になったとしてもニュージーランドならではののんびりした雰囲気は失わないでいてほしいです。
日本とニュージーランド、それぞれこの先どんな未来を歩んでいくのか、南半球の片田舎から引き続きウォッチしていきたいと思います。そのためにも仕事がほしい(←結局それか)。