日本に帰ってきてから、高校や大学、以前の会社の同期などの古い友人に多く再会してきた。
30歳も過ぎると、既にみな様々なキャリアを歩んでいる。新卒で同じ会社に10年勤め続ける人、転職して当初とは違う仕事を選んだ人。同世代の人生を全体的に眺めると、自分も含めて、転職を経験した人のほうがいきいきとした人生を歩んでいるように見えるのを興味深く感じた。
たとえば、複数の友人が激務のシステムエンジニア稼業を辞めているが、ひとりは定時帰りが当たり前の職場に転職したおかげで趣味の音楽を楽しめるようになったし、また別の友人は別業界に転職してプライベートの時間が確保できたからか、一度別れた彼女ともヨリが戻って幸せに過ごしていた。
かくいう自分も、長時間残業上等だった職場を脱出してニュージーランドに渡り、いまでは毎日定時帰宅、有休も好きなように取れるなど、プログラマとしての暮らしを謳歌している。
一方で、飲み会の席で「残業つらいわー」「連勤つらいわー」と愚痴をこぼしていた友人はみな、長年同じ会社に勤め続けている人ばかりだった。
これは、成功者の事例ばかりが目立つ、いわゆる生存者バイアスなのだろうか? そうは思わない。少し考えてみれば、転職したほうが幸せになれる可能性は高いことが簡単にわかる。なぜならば転職とは、いまの働き方の問題を解決する手段だからだ。
残業時間が長くてプライベートの時間が取れない、だから定時帰りが当たり前の会社で働く。いまの会社の給料が安い、だから少しでも月給の高い会社に移る。満員電車に乗るのが苦痛だ、だからリモートワークができる仕事を選ぶ。などなど、どんな場合においても、転職に踏み切る人たちの多くは問題解決を試みているのだ。そりゃ、問題を放置している人より幸せな生活が手に入る可能性が高いに決まっている。
しかし現実には、転職を怖がり、しんどい現状に甘んじてしまう人が多いように感じる。気持ちはわかる。日本の会社には、辞めたら損になる仕組みが多すぎるのだ。たとえば、長く勤めれば勤めるほど多額のお金がもらえる退職金制度。せっかく積み立てたお金がフイになってしまう不安は、転職を躊躇させるのに十分だろう。住宅手当に配偶者手当など、ライフスタイルの変化に合わせて会社が手厚くサポートしてくれる追加収入も、海外にはみられない独特のシステムだ。こうした収入に依存する人生設計をしてしまうと、転職はどんどん困難になっていく。
ひとつの会社に勤め続けるのが悪いとは言わない。大きな不満もなく、やりがいをもって長く働き続けられる会社は素晴らしいし、新卒でそういった会社に巡り会えた人は幸せだと思う。僕の友人の中でも、業界でいちはやく残業規制を取り入れるなど先進的な取り組みをしている企業で働いている人は、転職の必要など感じず、いまの仕事にとても満足しているように見えた。
しかし、新卒で入社した企業が自分にとって理想の環境である可能性は、決して高くない。いざ働き始めてみると、就活中には見えなかった会社の悪い部分がわかってくることがある。その場合、転職、つまり働く場所そのものを変えてしまうことは、直接的な解決手段として非常に有効になるはずだ。
転職はなんら特別なことでもなければ、ましてネガティブなことでもない。「理想の就職」というタスクを、一発で成功させる確率と、二度目以上で成功させる確率、どちらが高いのか。ただそれだけの話だ。いまの仕事の現状に不満を持ちながら、環境を変えることに二の足を踏んでいる人には、ぜひポジティブに考え直してほしいと思う。