僕はこのブログを通じて、特にIT業界で働く皆さんに、ニュージーランド移住という選択肢の魅力と、その現実性についてお伝えしてきました。
おかげさまで最近は、Twitter やお問い合わせフォームからも、ITエンジニアの方から移住についての相談を受けることが多くなりました。
基本的に移住に関してはポジティブな助言をしたいと思っています。しかし海外移住は大きなチャレンジです。お金も時間もかかります。それだけに無責任にポジティブなことばかりは言えません。僕自身の経験だけでアドバイスをするのは視野が狭すぎる。
そこで今回は、実際の成功例も失敗例も含めた、移住の現実をご紹介します。
このエントリを書くにあたって、オークランド在住のITエンジニア・Hさんにテキストインタビューをさせていただきました。
Hさんプロフィール
日本の大手 SIer に10年間勤務。
退職後、関東某県でチーズ製造のビジネスを開始しようとするも、東日本大震災に伴う放射能汚染の被害にあい、事業継続を断念。
それをきっかけに、ITエンジニアの技術が高く評価されるニュージーランドへの移住を決意する。
現在はニュージーランドの大手銀行にてITエンジニアとして勤務。
これまで多くの日本人から移住の相談を受け、その顛末を目にしてきた。
最初に断っておきますが、今回のエントリにはかなり厳しい内容も含まれています。一部の人には耳の痛い話かもしれません。
しかし移住を目指す上では、成功例も失敗例も知っているHさんのお話は非常に有益です。僕自身も共感する部分が多くありました。
ニュージーランドのIT業界で働きたい! と思っているすべての人に読んでいただきたいです。
Contents
IT業界への就職を甘く見てはいけない
近年、移住先としてのニュージーランドの人気は高まる一方です。そしてITエンジニアの職を得ることが永住権取得への近道ということで、未経験からのキャリアチェンジを図る人もいます。
しかしそういった人々の就活は決して順調ではありません。
「(IT業界への)キャリアチェンジ組の就職活動は悲惨な状態です。数人を除いて壊滅です」
Hさんは厳しくこう現実を語ります。彼らは多くの場合、移住に失敗して帰国することになっているそうです。
「キャリアチェンジ組の誤解はITコースに1、2年通う程度で職務遂行レベルの技術を得られると勘違いしていることが挙げられます。
仕事で通用する技術というのは、例えばディベロッパーならプログラムは書けて当たり前で、より堅牢でメンテナンス性の高いプログラムを書くなどプラスアルファをどれだけ提案できるかが本当の技術力ともいえます。だからITエンジニアは Skill Shortage List *1に載っているのです。
少しやればだれでも習得できる技術が Skill Shortage Listに載るわけがないという事実を理解しなければなりません。」
僕自身、日本のIT企業で5年半システムエンジニアをやっていましたが、就活には非常に苦労しました。何しろシステムエンジニア時代は業務でプログラムを書いていた経験がほとんどありませんでしたから。
CV*2に書ける経歴を作るためにも、プライベートでウェブサービスを開発したり、知り合いのためにウェブアプリを作ったりと修行をしていました。それでもなかなか面接にすら進むことができなかったのです。まして、学校でITの基礎を教わっただけの人がすんなり就職できるとはとても思えません。
Hさんは「成功する人は経験に裏打ちされた技術がある人です。失敗する人は技術がない人です」と言いきります。雇用者側からすれば実にもっともです。今までIT業界未経験、NZの学校で1年勉強しました。そのレベルの、しかも日本人を、高い給料を出して雇う理由はありません。だって毎年カンタベリー大学やオークランド工科大学といった名門校から何人も優秀な卒業生が出てくるのですから。
ニュージーランドのIT業界を目指す人は、実務で通用する開発技術がなければスタートラインにすら立てないことを、はっきりと自覚する必要があるでしょう。
技術 + ターゲティングが必要
では技術があればすんなり就職に結びつくのかというと、そうではありません。技術がありながら就活に失敗した人の事例があります。
「Aさんは日本の会社を退職後、フィリピンに半年語学留学した後にNZに渡航。ITコースのレベル5と6*3を卒業し、Post Study Work Visa*4を取得し就職活動を1年行いました。しかしターゲティングが全くできていない状態で、CV選考をほとんど通過できずに帰国しました」
就活に必要な要素として、Hさんが開発技術と共に強調していたのが「ターゲティング」です。
IT業界と一口に言っても、ウェブ系なのか業務システム系なのか、ソフトなのかインフラなのか、言語は Java か C# か PHP か……など、実に幅広い。その中で、どこに的を絞って自分を売り込んでいくのかが重要になってきます。
これがうまくできないと、このAさんのように、日本での実務経験は十分で英語力も問題ない人であっても、自分が必要とされる市場に売り込みにいくことができず、いたずらに時間を浪費することになってしまうのです。
そしてHさんはこうも語っています。
「自己分析・業界分析を繰り返して方向性を修正・改善しながらターゲットを絞り込んでいける人はジョブオファー獲得の最短距離に身を置くことができます。CV選考は基本的に突破できるようになり、電話面接・スカイプ面接、HRとの直接の面接は失敗を繰り返しながら次第に突破できるようになります。」
つまり、
- IT業界を目指す以上、業務レベルの技術と経験は必須
- 技術と経験を精査し、自分が必要とされる業界にターゲットを絞ることで成功確率が一気に高まる
ということですね!
ちなみに、Hさんの周りでも、技術がなかったにも関わらず就職に成功した、という人が少ないながらいます。それはすべて「英語のコミュニケーションに問題がなく、ネットワーキングを築いた人たち」とのことです。ニュージーランドのコネ社会を如実に物語る内容ですが、このネットワーキングを築くのがなかなかに大変。ニュージーランドのIT業界で働いている家族や親しい友人がいるとかでなければとても無理でしょう。
技術を磨き、ターゲッティングを本気で行う。この2つがニュージーランドのIT業界を目指す上での大本命といって間違いありません。
こんな人は就職に失敗する
「就職が絶望的な人ほど努力もしないし、とても楽観的です」
移住に失敗して帰国していく人たちの典型的な人物像として、Hさんはこう述べました。
信じがたい話ですが、海外就職という高いハードルに対して、「なんとかなるでしょ?」と、努力もせずにぶつかっては敗れ去っていく人たちが多いのだそうです。
英語力が低い
今回のインタビューにあたって、移住の失敗例について具体的にお伺いしました。その中で衝撃的だったのが以下の例です。
「英語力が低くて ITコースに入学できずに帰国する人がいます。Post Study Work Visa 取得にも至らなかったケースですが、実は結構多いです。ここ4年の間だけで私が知っているだけで5人以上います。」
本気でニュージーランド移住を目指すのならば、せめてレベル7*5の学校に入るだけの英語力は身につけてくるのが当然じゃないのと思うんですが、そうでない方が結構多いんですね。まずはニュージーランドに来てしまって、語学学校に通って英語を勉強し、大学や専門学校の入学に必要なレベルに達してから編入するという人。
それでもちゃんと英語が身につけばいいのですが、ビザが切れるまでに必要レベルに達しない可能性があることを考えるとリスキーすぎます。日本にいるうちに英語を勉強しておいたほうが確実ですし、それくらいの努力ができなければ、海外移住を実現するのは難しいのではないでしょうか。
最低でも IELTS General*6 の overall 6.0 は取れるようにしておきましょう。
自分の今の実力を計るためにも、公式問題集の問題を解いてみるのがオススメです。
エージェントに簡単にお金を払う人
努力しない人に共通する特徴なのか、うさんくさいエージェントにやコンサルにほいほいお金を払ってしまう人が多いのだとか。
「個人も法人も含めて『誰もが注目するすごいCV書きます』とか『超面接対策』とか、ただの素人日本人がコンサルタントを名乗って「業界の調査します」とか、日本人を食い物にする日本人がかなり多いです。「ポジティブシンキング」とか「今がチャンス」とか言う輩は百害あって一利なしです。近づくのはやめましょう」
お金やポジティブシンキングで簡単に達成できるほど海外就職は甘くありません。必要なのは、現実を見つめて正確に分析し、目標に向かって方向修正しながら努力し続けること。最後に道を切り開くのは自分自身です。
ニュージーランドのIT業界を目指す方へのアドバイス
それでもニュージーランドのIT業界を目指したい! という方へ、Hさんからアドバイスをいただきました。
「しっかりと経験に裏打ちされた技術があって、ターゲティングがしっかりできる人は就職できる可能性が極めて高いです。自分でゴールを設定してやっていける人は大概、仕事を得ています。
仕事を得ることは大変ですが、難しいことではないです。
問題なのは、技術もなく、ターゲットもなく、資格もネットワークもないままに就職活動をする人です。必ず失敗します。残念ながら、こういう人たちがかなり多いので、帰国者が増えているように見えます。
実際、就職活動はしんどいです。CVを送っても何の音沙汰もなく毎日が過ぎていき、面接では英語が聞き取れず、試験は全く理解できずに撃沈する失意の日々が続きます。これが続くと自尊心なんか完全に消失するし、心の痛みに対する許容度が落ちて、CV送ることが怖くなります。でも、前に進むしかないのです。その先にあなたのゴールがあります。
もしIT未経験でもなおNZでITエンジニアで働きたい、というならば日本のIT派遣会社で数年、最低でも3年は働くことをお勧めします。結果としてそれが一番の近道だと私は思います」
この言葉には僕も非常に共感しました。就活は決して楽ではありません。しかし、技術とそれをアピールする力があれば道は開けます。
ニュージーランドのIT業界は、残業なしで給料は日本より高いという天国のような環境です。多少の苦労をしてでも挑戦する価値はあります。技術がありながらも評価されない環境の中でくすぶっているエンジニアの人たちには、ぜひニュージーランドを目指してほしいです。ほんとに人生が180度変わりますから。
最後に、貴重なお話を聞かせていただいたHさんにお礼を申し上げます。ありがとうございました!
*1: ニュージーランド移民局が制定している、深刻な人材不足にある職種のリスト。このリストにある仕事で就職すると永住権が取得しやすい。ITエンジニアのほか、医療関係、建築関係なども指定されている。
Skill Shortage List Checker – Immigration New Zealand
*2:Curriculum Vitae。履歴書のこと。日本の履歴書とは異なり、職務経歴や習得技術などを詳細に記述する必要がある。
*3:短大卒に相当。
*4:ニュージーランドの高等教育機関を修了すると取得できる就労ビザ。
*5:大学の学部卒に相当。筆者の卒業した Graduate Diploma もこれに相当する。
*6:ニュージーランドの大学入学や永住権取得に必要な英語能力試験。Academic と General があり大学入学には Academic のスコアが必要。IELTS – IELTS – Home of the IELTS English Language Test
[…] ただ就職活動はなかなか大変だったようです。 […]