突然ですが、ザ・プーチンズというユニットをご存知でしょうか。
ギタリストの街角マチオ、テルミン奏者の街角マチコ、ホームページ更新担当の川島さる太郎の3人からなる、演劇系ポップユニット。音楽と舞台の両方で活躍しているのが特徴で、その音楽においては、無駄に作り込まれたキャッチーなメロディと、言葉遊びを駆使したナンセンスな歌詞が持ち味です。
PV がどれも常軌を逸しており、特にこの「ナニコレ」なんか、作った人間がまともな常識を持ち合わせていないことを確信させる内容となってます。
そんな彼らにニュージーランドにいながら完全にハマり、日本からわざわざDVDを取り寄せてしまいました。それが「川島さる太郎の笑っていいとも」。ザ・プーチンズの舞台「本公演」を収録しています。
川島さる太郎は街角マチオの中学からの同級生。パティシエとしてお菓子メーカーに勤務しているが、とある事情で新宿駅徒歩30秒のマンションに引っ越すことになる。しかしそこは、あの番組に出たかった地縛霊たちのたまり場だった。。。(DVD 裏面の説明文より)
各方面から怒られないのか心配になるタイトルと内容で、さすがこちらの期待を裏切らないシュールな筋書きだわと胸踊らせながら再生ボタンを押したのですが、いやはや、まさかこの DVD に泣かされるとは思いませんでした。
「前振り亭ケンタウルス」の歌で泣いた
この作品で重要な役割を担うキャラクターが、落語家の前振り亭ケンタウルスです。
劇中劇として、彼の独演会が始まります。ケンタウルスは、「前振りとは、物事をドラマチックにするためのものである」と説き、前振りの効果を滔々とフリップ漫談で語ります(落語ではなく)。
あなたがいま、五反田でケンタウルスの漫談を聞いている。そんな何の変哲もない日常にも、前振りをつけることで、途端にドラマチックに変身するのだと。
そして最後に披露するのが、某ファンキー某ベイビーズを意識した(?)オリジナル曲「大丈夫、それ前振りだから」。歌詞の一部を引用します。
もし君が今誰かにいじめられているとしても
きっと大丈夫 今度そいつがいじめられる前振りだからもし君が今大事な財布 どこかで落としたとしても
きっと大丈夫 運命の出会いの大事な前振りだからその財布はすぐに見つかるよ
さあ 拾った人に電話しよう
お礼は直接渡すのさ 好みのイケメン来るから(中略)
輪廻転生 万事塞翁が前振りさ
森羅万象 万事塞翁が前振りさ
万事快調 万事塞翁が前振りさ
不自然にポジティブなメッセージを繰り返す某モンキー某ズの楽曲を揶揄したような歌詞で、まぁ全く脚本家の意図するところではないと思うんですが、なぜかここで目から涙が……。
「大丈夫、それ前振りだから」って、どうしても自分の人生と重なってしまうのですよ。
辛いできごとも全部前振りだから
僕はかつて、日本のIT企業で過労死寸前に陥ったことがあります。
システムエンジニアとして大炎上プロジェクトに配属され、ひと月100時間を超える残業も幾度も経験しました。家に帰れずホテルに泊まり込んで仕事したこともしばしば。ストレスで心身ともに限界に達し、ある休日出勤の最中、突然「あ、このまま働き続けたら死ぬ」と直感し、財布だけ持って黙って職場から自宅に逃亡したのです。あの日、我慢して働き続けていたら……どうなっていたかわかりません。
会社を辞めてから、貴重な20代の5年間を不毛な労働に費やしてしまったことに、やるせなさや怒りを感じることが幾度もありました。しかし、長年ブラックな労働を経験したことで、ニュージーランドまでやってくる行動力が生まれたことも事実。「元社畜」という事実が、このブログのブランディングに一役買っていることも否めません。あの体験が、僕に語るべきことをくれたんです。
さらに、地獄のような労働環境を知っているからこそ、ニュージーランドでは至極当たり前のことである、毎日定時で帰ってプライベートを楽しむ生活の幸せを、人一倍感じられているのだろうとも感じます。
読者の方の中には、かつての自分のように人生の暗闇の中をもがいている人もいるかもしれません。でも大丈夫、それ全部前振りだから。現状を変えるために行動し続けてさえいれば、必ずドラマチックな結末が訪れる。
前振り亭ケンタウルスに話を戻すと、彼は劇中、前半身と後半身が真っ二つに割れる奇病にかかり壮絶な最期を遂げるのですが、それですら、あとに続くできごとの前振りですからね。まぁ、さすがに死んでしまってはどうしようもないですが、生きてさえいれば人生どうとでもなる。僕も身をもって知りました。
夜の闇が暗いほど、昇る朝日は明るいのだ。それを忘れないでほしいな、と思う次第です。